その男は奇妙で、矛盾していた。
盲目でありながら、天才画家と謳われた男。
いや、だからこそ彼にしか見えない世界があるのかも知れない。
しかし、創作の情熱はすでに失われていたようだった。
国立美術館のキュレーターや、公爵夫人からの作画依頼、また、画家として最大の名誉である宮廷画家への招聘も断るほどに。
名だたる権力者たちが去った後、残ったのは記憶のない兵士だった。
名前も、なぜここへ来たのかも不明でありながらも眼前に居座る兵士。
画家は苛立ちの中でふと、その兵士から香る独特な匂いに妙な既視感を覚える。
自分はその香りを嗅いだことがある。
呼び起こされたのは、かつて在籍していた”ガーデン”と呼ばれる孤児院の記憶だった。
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